江島恵 墨絵ライブペインティング Vol.4 (2016.5.7)

~イベント記録ページ~

ただよう墨絵師として、作品を生み続けている江島恵さん。

その作品から溢れるストーリー性や情感の奥深さは筆舌に尽くし難い世界を持っています。

出来上がった作品を通して、その世界を垣間見ることができるのはもちろんなのですが、江島さんの表現者としての魅力は、その作品を描く瞬間の姿も、空間もアートになっているということだと思います。

そんな研ぎ澄まされた空気の中で、鳥肌の立つような感覚を体感できるのが、「江島恵 墨絵ライブペインティング」です。

音楽に合わせて、その曲が始まって終わるまでの間に、一つの作品を仕上げるという、まさにその瞬間に生きるアートと呼ぶにふさわしい世界。過去3回ほど体験させてもらい、毎回心地よい緊張と感動を得ていましたが、その音楽の選定を全曲任されるという大役を、今回仰せつかりました。過去3回はROSSAの田中さんという幅広い音楽に対する造詣と類い稀なセンスを持ち合わせたこれ以上ないくらいな適任者が選曲されていたので、相乗効果がありましたが、自分にこの大役が務まるか、生半可なことはできないなと、お話をいただいてからも、組み立てては壊しを繰り返すだけで、僭越という表現しかできない精神状態が続きましたが、私自身、影響を与えてくれた音楽達と再度真剣に向き合う機会を得ることができました。そして迎えたライブペインティングの日、江島さんは見事に予想をさらに上回る素晴らしいアートステージを展開してくれました。

江島恵さんの墨絵ライ ブペインティング、珠玉の息吹あふれる曲の数々とのコラボで、生まれた作品の記録として、ぜひ感動を共有していただきたく、僭越の上塗りですが、まとめサイトをここに用意いたしました。

同席された方も、ご覧になれなかった方も、ぜひご堪能ください。

 

Gypsy Pot :Jun S.


第1部

作品1「韋駄天」

曲名:Live and let die/Wings
1973年映画『007 死ぬのは奴らだ』の主題歌で、私が初めて自分で買ったレコードの曲です。歌っているのはポール・マッカートニー。歌い上げるバラード部とスパイアクションを連想させる激しい間奏部分のメリハリがライブペインティングに合う予感がして選びました。

筆の運びが音楽の躍動にリンクするように進み、力強い屈強な姿が描かれていきました。足の速い神として知られる韋駄天の雄姿です。


作品2「還城楽」

曲名:Ceddin Deden

1979年のNHKドラマ「阿修羅のごとく」に使われ、当時偶然そのシーンを見て強烈なインパクトを受けた曲です。その後この曲のルーツがオスマントルコの軍楽隊が音楽で敵を威嚇するために利用した行進曲が元になっているということを知りました。音楽の力がみなぎっているので、絵とのコラボで何かが生まれると感じ選びました。

現れてきたのは、食べ物として好物の蛇を見つけ、得意げに狂喜乱舞する男の業が感じられます。


作品3「来迎図」

曲名: I Am The Walrus/Beatles

一番影響を受けたアーチスト「ビートルズ」の中でも特別な存在の曲。幻想的なサウンドのコラージュが様々なイメージを誘う曲です。

そこで江島さんが描きだした世界は、なんとも楽しげでありがたい迎え入れてくれる優しい世界でした。

 

※この曲は権利関係が特に厳しく、音声をオンにした状態で公開することができません。苦肉の策で、音のないライブペインティングの映像と、原曲の動画を2本同時に再生させて、雰囲気だけでも味わっていただこうと、別サイトに2本同時再生ページを用意しました。


作品4「ピエタ」

曲名:Mother/John Lennon

この曲はJohnの曲の中でも特に衝撃をうけた曲。人間の根源的孤独を表現せざるを得なかった、必要に迫られた作品だと感じています。必要に迫られて生まれた作品とのコラボをぜひお願いしたいと思い、どうしても入れたいと思った曲でした。

そして描かれた作品は、太い線で重く構成されていき、やがて明らかになった悲痛なまでの固い怒りの表情をもつマリアと、理不尽な扱いを引き受けたキリストの姿。

ここまで刺さる墨絵を表現いただけるとは。

 


作品5「ヤマタノオロチ」

曲名:Smoky/Char

とにかくかっこいい、ギター少年にはたまらない、技のデパートのような構成でありながら、スリリングでスタイリッシュなあこがれの曲です。キメのブレイクフレーズとペイントのライブ感が同期し重なると何かが生まれる気がしました。

江島さんの筆の動きや技の数々も、スリリングでスタイリッシュな雰囲気を醸し出し、描かれていくのは躍動感みなぎる、ダイナミックな伝説の世界。

 



第2部

作品6「地蔵菩薩」

曲名:遠来/友部正人

この曲をはじめて聞いたとき、このうたが意図する共時性、自と他の空間のとらえ方にとても影響を受けました。江島さんのライブペインティングに、日本語の歌詞の曲が使用されることはありえないと思いましたが、この曲の音としての雰囲気や世界観は、きっと江島さんの描く世界に繋がるものがあると感じていました。

そして、描かれていく墨絵は、歌の流れに従って次第に安心感が増幅していくような、おだやかで癒される世界でした。

 


作品7「サムソンとデリラ」

曲名:Er Turan/Turan Ensemble

この曲を演奏しているのは独自性にあふれ、音を妖術のように使いこなす印象を持つカザフスタンのワールドミュージックグループ。

その音にインスパイアされて江島さんが描きだした世界は、妖艶な女性の姿。そしてその横に徐々に表れてくる強面な男。旧約聖書に描かれた逸話になぞらえた見事な作品となりました。


作品8「後朝の歌」

曲名:Beautiful Morning/East

この曲を演奏しているイーストは、私が中学時代深夜ラジオ放送を聞きながら、そのギター奏法で大変感銘を受けた瀬戸龍介さんが、そのもっと前の1972年にアメリカでデビューした日本のバンドで、当時大きな話題となり、日本に逆輸入されました。モダンフォークと和楽器が融合したような不思議な響きと世界観が、混じり切らない東洋と西洋を感じさせるような曲です。この伝説の曲で江島さんが描きだした作品は、長い黒髪が切なく、いとおしく感じさせるような雰囲気の女性の姿。タイトルもまた、古来からの男女のドラマを感じさせる作品です。


作品9「バベルの塔」

曲名:Rustem si suite/Taraf De Haidouks

このスピード感と存在感のある独特のフレーズ、強烈な印象を残す音色。私がジプシー音楽にはまる事を決定づけたユニットと曲で、あらゆる要素が詰まった演奏です。ロマの生命力を墨絵とコラボできるとどうなるのかとおもいました。そして現れてきた作品は、たくさんの幾何学的な図形が忙しく並んでいき、やがて不安定に見えながら絶妙なバランスの構造物らしきものが浮きだしてきました。混沌の中に唯一バランスがとれる必然性の瞬間が現れたような絵でした。まさに私の目指す音楽の世界観とも重なり合いました。


作品10「タオ 老子」

曲名:Rainbow Connection/Kermit the Frog

この曲を歌っているのは、ジム・ヘンソンが製作したマペット、蛙のカーミット。声はジム・ヘンソン自身ですね。カーミットがハリウッドを目指すというマペットムービーの主題歌。カーペンターズのカレンの死後に未発表曲としてカレン自身のボーカルでも発表され、日本ではドラマの主題歌としても注目されました。Rainbow Connectionが表わすものは、目に見えないものを信じ続けられる人のみが辿りつける世界の存在。江島さんによって描かれていく墨絵は、ほのぼのとした雰囲気の中に超越したつながった世界を垣間見ることができる作品です。



アンコール

作品11「墨の精」

曲名:ただよう墨絵師/Jun S.

今回選曲をしながら、自分だったら墨絵というイメージでどんな曲を書くだろうとたびたびイメージすることがありました。最後にアンコールがくるかもしれないので、なにかGypsyPotの曲でも用意しておこうかという話になった時、いやきっとそれは今まである曲ではないなと思い、無謀にもオリジナルをそこで生演奏してみたいという気になりました。完全に事前に用意していましたということになってしまうのですが、サプライズとしても面白いかもしれないと思い、日本で発明された楽器である「大正琴」を選びました。

この曲は、ただよう墨絵師というイメージの曲。

そして、江島さんによって描かれた作品「墨の精」は、江島さんのなかのもうひとつの姿のように映りました。

 



・墨絵師:江島 恵

      ブログ「ただよう墨絵師」

      作品の販売「ただよう墨絵堂」

・ビデオ撮影・編集:佐藤 広隆

・選曲・演奏:Jun S.

・協力:キッド・アイラック・アート・ホール

・写真提供:春名 大介